我々は何のためにソフトウェアを開発するのか?

達人プログラマー』の著者であり、アジャイルソフトウェア開発宣言の発起人の一人でもある Dave Thomas氏によって書かれたブログ記事「Agile Is Dead (Long Live Agility)」が、アジャイル界隈に少なからぬ波紋を投げかけたのは記憶に新しい。

その記事で彼は、アジャイルという言葉が、その人気ゆえに、マーケティングの道具にされて有名無実なものになっていることを嘆いていた。

同じくアジャイルソフトウェア開発宣言の発起人である Ron Jeffries氏が年初に出した「The Nature of Software Development」という本は、もしかしたらこの流れに何らかの影響を受けているのかもしれない。

この本でJeffries氏は、いわゆるアジャイルと呼ばれるものの本質について、アジャイルという語やその周辺の専門用語を極力使わずに、おそらく技術者でなくても理解出来るような平易な言葉で解説をしている。150ページほどのコンパクトな内容にたくさんの手書きイラストと専門用語を排した説明。2015年の今、アジャイルの(再)入門として読むには最適な書籍だ。

Dave Thomas氏の記事もそうだが、アジャイルが生まれてから十年以上が経過した今、アジャイルってそもそも何だ? というところに一度立ち返ろうという流れが出てきているように見える。

本来、アジャイルというものは、自分が置かれた状況に合わせてどのように行動したら良いか、ということを考える上での原則を与えるものであって、複雑な手順やツールを利用したり、専門用語に精通したり、ましてやスクラムの資格などとは本質的に関係のないもののはずである。

Jeffries氏は、我々は何のためにソフトウェアを開発するのか? それは「価値」を提供するためである、という当たり前(だけど忘れがちな)事実からスタートして、その効率を最大化するための基礎となる要素「Guiding」「Organizing」「Building」「Slicing」「Quarity」について説明する。

この本の中で個人的に面白いと思ったのは、「価値とは何か」という問いに踏み込んでいるところである。

これまでのアジャイルでは、価値の決定は顧客、あるいはそれに準ずる利害関係者に託されていた。開発の透明性を高めて判断材料を増やし、イテレーション開発で判断機会を頻繁に設けることで、より高い価値を目指す。

アジャイルの考え方を起業に応用したリーンスタートアップでは、さらに踏み込んで、計測可能な価値というものを考える。価値仮説を立てて、実験と計測を繰り返す事で価値の最大化を目指す。

そして、「The Nature of Software Development」では、基本的に価値は計測可能なものではなく「Value is what you want(価値とはあなたが欲しいもの)」だと定義する。一見、何も説明していないようにも読めるが、Jeffries氏は価値というものの多様性を説く。我々は色んなものに価値を認める。例えば「情報」だったり「人命」「資本」「スピード」「幸福」「創造性」などなど、あらゆるものに。

つまり、「価値とはあなたが欲しいもの」の意味は、価値、あるいは何が役に立つかという事は、その価値を受ける人とその人が置かれた状況・文脈に依存するのであって、その状況ごとに自分の頭で考える他はない、ということになる。

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