アジャイルにとって不変なのは価値であって、方法論は状況に応じて変化していく

以前の記事で少し触れた「Agile Is Dead (Long Live Agility)」について、InfoQ が Dave Thomas氏本人に行ったインタビュー。

2001年、ユタ州のスノーバードに集まった、Kent Beck氏を始めとするソフトウェア開発の思想的リーダー17名。そこで自分たちの思想の共通点は何なのかという事を議論し、その成果を「アジャイルソフトウェア開発宣言」として世に公表したとき、その宣言がここまで大きく世の中を変える事になるとは全く想像していなかったと、Dave Thomas氏は語る。

agile

この宣言が発表される以前から、Kent Beck氏らによるエクストリーム・プログラミング(XP)や、Martin Fowler氏の記事「The New Methodology」など、開発者コミュニティの中では、アジャイルのような思想を受け入れる素地が出来上がっていた。

このように最初は開発者による日々の実践だったものが、成功したスタートアップの秘訣として紹介されるなどして、徐々に開発者以外の注目を集めて行く。

この過程を、Thomas氏は面白い表現で説明している。組織の管理者がアジャイルの評判を聞いて、それを自分の組織にも導入しようと号令をかける。すると、血に引き寄せられるサメのごとく、その周りをコンサルタントやコンサルティング会社が旋回し始める…

当然の事ながら、コンサルタントのアドバイスは管理者受けが良いように最適化されるため、その段階で個人の主体性を大事にするアジャイルの価値は失われてしまった。

Thomas氏曰く、「我々が提案する〜をやればアジャイル開発を実現できます」というコンサルタントは間違っている。理想的なコンサルタントはこのように言う、

「あなた達にとって何が最適か、私には分かりませんし、あなた達自身にも分からないでしょう。でも、とりあえずどこからかスタートすることは出来ます。まずは適当なプラクティスを選んで一ヶ月間実践してみるところから始めてみましょう。その後、何がうまく行って、何がうまく行かなかったか評価をします。そして、その評価に基づいてやり方を変えて行きます。おそらく最初に採用するプラクティスは、XPやスクラムの本を参考にするでしょう。でも、今から半年後、あなた達のやっていることは、どの有名な手法にも当てはまらなくなっています。何故なら、自分たちに最適な方法を自分たちで編み出す事になるからです。やり方はずっと変わって行きます。変化を楽しみましょう。」

アジャイルの導入として、これ以上分かりやすい説明はないのではなかろうかと、個人的には思う。

アジャイルで不変なのは「アジャイルソフトウェア開発宣言」にも謳われているその「価値」であって、方法論はチームによって、あるいはチームが置かれている状況によって変化する。

ここが、アジャイル以前に存在したウォーターフォール手法などとの決定的な違いである。そもそも同列に比較されるものではない。価値原則に照らし合わせれば、アジャイルを方法論として売り込む言説に対しては常に疑ってかからなければならない。逆に言えば「〜を実践してないなら、お前らはアジャイルじゃない」ということも言えないはずだ。

Thomas氏は、アジャイル実践手法の基礎となる、メタプラクティスなるものを提案している。それは、

  • 自分たちの現在地を把握する
  • ゴールに向けて小さなステップを踏み出す
  • そのステップによって起こった事を評価し学習する
  • 繰り返す

によって構成されるプロセスだ。ここに具体的なプラクティスは何も含まれていない。自分たちのアジリティーを向上させたいのなら、このプロセスをあらゆるレベル(関数の命名レベルの細かさから、新しいビジネスの計画に至るまで)に適用出来るように、自分たちでプラクティスを編み出して行かなければならない。

改めて考えてみると、管理者というのは常に「状況をコントロールしなければならない」というプレッシャーを受け続けている。計画出来ずに「今はまだ何も分かりません」では、ステークホルダーを説得出来ないからだ。そのような管理者によって、アジャイルは流行のバズワードとしてステークホルダー向けのプレゼンテーションに利用されてきたのかもしれない。しかし、アジャイルの考え方というのは、そのような(事前に青写真を書かないといけないという)ビジネスのあり方自体に疑問を投げかけるものだ。

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