アジャイルがうまくいかないのは何故か?(2015年版)

The GROWS Method™

「アジャイルの失敗」という話は、今となっては特に目新しいものでもない。筆者が記憶している限りで古いものだと、2008年に書かれた James Shore氏の「The Decline and Fall of Agile」という記事がある。

「ソフトウェア開発に銀の弾などない」と、あらゆるIT専門書のイントロダクションに断わりが入れてあるのに、未だに「○○を試したけど効果がない」という苦情が後を絶たないのは何故なのだろうか。

今回のブログ記事「The Failure of Agile」を書いた Andrew Hunt氏は、「達人プログラマー」の共著者であり、「アジャイルソフトウェア開発宣言」の発起人17名の中の一人でもある。彼は、7年前の James Shore氏と同じく、アジャイルがうまく行かないのはアジャイルを正しく実践していないからだと指摘する。

具体的にはこういうことである。初心者がアジャイル開発を始めるに当たっては、何かリファレンスになるような書籍やルールを参照するのが普通である。しかし、ほとんどの初心者はルールに従うという最初の段階から先に進む事ができない。アジャイルは参加者に「変化」を求める。既存のルールに問題があれば、そのルールを変えて、自分たちの状況にあったルールを新たに生み出し、そしてそれを継続的に更新していかなければならない。アジャイルを継続的に行うためには、アジャイルの書籍に書かれている事にこだわっていてはいけない、というねじれを乗り越えて行かなければならない。その上、コミュニティの中には正規のプラクティスを実践しているかどうかに執拗にこだわるアジャイルポリスみたいな人たちがいる(cf. TDDポリス)。ますますアジャイル本来の意図からは遠ざかるわけである。

この状況を打開するため、Hunt氏は「GROWS™」という手法を提案している。GROWSは「GRowing Real-World Oriented Working Systems」の略語にもなっており、これは商標として扱われている。誰でも自由に使えるようにしてその本来の意味を歪められてしまったアジャイルの轍を踏まないように、というのが商標にした理由らしい。

GROWS™の詳細は現段階でまだ明らかにされていないが、基本のステップを「実験」と捉えることや、フィードバックに対するエビデンス(証拠)ベースの判断等、かなりリーン・スタートアップに近い手法なのではないかという印象を受けた。

さて、言葉を占有して解釈を限定させようという方法は、本当に良い方法だろうか? 個人的にはそう思えない。オブジェクト指向やアジャイルという考え方は、本質的には、物事のInsight(見識)を提供してくれるものであって、何らかの手順を踏めばプロジェクトがうまく行くといったような処方箋を与えるものではないと思う。もしそれらの考え方が役に立たなかったのであれば、それは単に受け手側の問題である。自分(の状況)には合わなかったと思って次をあたるべきだ。しかしながら現実には、以前の記事で書いたように、ある考え方が流行るとその周辺をコンサルタントやコンサルティング会社が商機を求めて集まってくる。そこで「○○を使ったらお宅のプロジェクトもうまく行きますよ」という具合に喧伝する。その中でことごとく裏切られた期待が炎上を引き起こし、Andy Hunt氏や James Shore氏のようなコミュニティを代表する人たちが火消しに走らなければならなくなる。この風景はソフトウェア開発産業に限らず、セールスマンが存在する限り、あらゆるところで繰り返されているのだろう。

さらに思うのは、アジャイルのような手法が難しい原因は、ほとんど政治的な問題に収斂するのではないかということである。その内容が誰かに歪められたから正しいアジャイルが実践されなくなったというよりも、従来的な組織の中でアジャイルになるというその事自体が根本的な矛盾を孕んでいるのではないか。アジャイル以後にリーン・スタートアップが出てきたのも、このことに関係しているのかもしれない。そもそもスタートアップのようなラディカルな環境でないとアジャイルというのは成立しないのではないか。

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