規模の経済と理想主義

クラウドファンディングで有名な Kickstarter のCEO、Yancey Strickler氏の提言。

利潤のみを追求する大資本が地域社会や多様性を壊して行く。数字至上主義に対して我々は何ができるか?

先月、UberやAirbnbに代表されるシェアリング・エコノミーについてのTim O’Reilly氏の論考を紹介したが、そこで経済的効率性からフランチャイズチェーンが生まれる過程について触れた。そういったチェーン、つまり大型のスーパーやファーストフード、コンビニと言ったものが、地域社会に根付いていた商売 ― 商店街などが象徴的であるが ― そういったものを根こそぎにしてしまうというのは高度経済成長期以降の日本でもよく見られた光景である。筆者の地元(千葉の田舎)にあって、かつては賑わいを見せていたアーケード街も、数年前に帰省した際に訪れてみたら、アーケード自体が撤去されて、営業している店もほとんどなく「兵どもが夢の跡」状態になっていた。

ニューヨークでは、新しく入ってくるビジネスの多くが銀行であるという。現在では1800以上の銀行支店がニューヨークに存在し、10年前より60%以上増加している。ニューヨークタイムズの調査では、ほんの158の家庭がアメリカ大統領選に投入される資金のほぼ半分を提供していることが判明している。音楽業界では、全米で行われるコンサートの8割がTicketmasterというチケット販売会社に独占され、レコードレーベルの多様性も失われつつあり、ヒットチャートTOP40の内、驚くべき割合の曲がたった4人の北欧出身の人間によって書かれているという。そして、ハリウッドでは、リスクを回避するための続編や前日譚といったシリーズ物が溢れている。

「お金」という単一文化(モノカルチャー)に我々はどのように対抗したら良いのか? 資本主義社会の中で生活する以上、その社会からドロップアウトして隠遁生活でも始めない限り、そこから逃げるのは至難の業のように思える。

Strickler氏は、そういった社会の中で生活しながらも、現実主義に陥らずに理想主義を貫くことが大事だと説く。自分が働く業界の標準に迎合しないこと。自分が正しいと信じる道を貫くこと。現状に満足せず、常に新しいアイデアを探し求めること。そして、短期の利益を追い求めるばかりに、長期の努力を軽視しないこと、持続可能性を考えること、など。

世の中が「規模の経済(economies of scale)」に向かって邁進して行く中、Strickler氏以外にも、その価値観に疑義を呈する人たちがいる。その中でも有名なのが、このブログの連載「TDD再考」に度々登場する Ruby on Railsの作者、David Heinemeier Hansson (DHH) 氏である。

ビジネスの世界ではより大きな数字を追い求める数字至上主義が蔓延しているが、例えば、ハーバードやオックスフォードといった有名大学の価値はそのような「数字」では計れない。であるならば、ビジネスの世界でも、組織ごとに適切なサイズというものがあって良いのではないか? 「小さい」ことを大きくなるための通過点として捉えるのではなく、「小さい」こと自体をゴールにしても良いのではないか?

DHH氏は2008年にもYcombinatorが主催するスタートアップスクールで、「ベンチャー・キャピタルからお金をもらって次のFacebookを狙うのをやめよう!」というスピーチをしており、投資を受けてイグジットを目指すシリコンバレー的なスタートアップ文化を批判していた。

  • 次のfacebookを目指してなんの意味がある? Ruby on Rails 作者が語る「お金を生み出して幸せになるためのたった1つの方法」 – ログミー

Facebookのような巨大企業を目指すためにあらゆることを犠牲にするよりも、自分達が良いと信じられるものを、自分達のペースで継続するのに必要最低限の規模を目指すこと。

ほかにもイタリアンレストランがたくさんあるなかで小さなイタリアンレストランでうまくいっているところがたくさんあるようにたくさんの勝者がいていいし、小さな問題を解決している会社が世の中には山のように存在する。そういった会社は2000とか10000の顧客を持っていて、何度も生まれて来た素晴らしい企業の多くは200の顧客からスタートしている。例外はFacebookのような会社で紙の上では2年で1.5兆円の価値になっている。あんな会社をロールモデルにしてはいけない。

そして、そのようなイタリアンレストランを目指すことは第二のFacebookを目指すよりも遥かに容易であるし、実現できれば、たとえ規模はささやかであっても素晴らしい達成なのだとDHH氏は言う(「人生の楽しみ方にはいろんな部屋がある」)。

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