受託開発でアジャイルというのはほとんど語義矛盾ではないだろうか

ここ最近、立て続けにアジャイル絡みの事を書きながらこぼれ落ちた考えをここに書き留めておく。

筆者にとってアジャイルというのは、かなりの程度、個人的な問題だということはまず認めておかなければならない。

個人的だと思う背景には、(自分にとっての)アジャイルというものを、それを知らない人に伝達する事の難しさをつくづく痛感しているからである。

アジャイルはそもそも道具ではない。すでに書いたように、アジャイルというのは価値観であるし、もっと言えば文化だと言っても差し支えないだろう。

人間の集団の中で理屈抜きで共有出来る何らかの価値観があれば、それを文化と呼ぶ。

例えば、一つの組織の中で、ある事が組織の利益になるから同意するというのは、基本的に契約の問題であって文化ではない。つまり、組織にとって利益になるからアジャイルを導入しようという(ベタな)言明はそもそも成り立たない。

アジャイルが結果的に組織にとって利益になるという事は当然あり得るが、利益になるからやるという順番だとそれはもはやアジャイルではない(それが「道具ではない」ということの意味だ)。このようなジレンマが文化というものには必ず付いて回る。

文化を築くのには気が遠くなるほどの時間と幸運が必要になるが壊れるのは一瞬である。特に営利組織の中で働いていて、その利益以外の事で価値観を共有するというのは基本的に至難の業である。

アジャイルはもう終わったという話が度々出てくるが、そのほとんどはハイプ・サイクル絡みの話だった。そもそも無理筋なことをやろうとしていた、というだけのことではないだろうか。

アジャイルはそもそも「無理」から出発した方が良いのだろう。

アジャイルはソフトウェア開発にクリエイションを持ち込もうとしたが、ほとんどの現場ではそんなものを求めていなかった。

日本ではソフトウェア開発の多くが受託開発だと言われている。

受託開発というものがそもそも「アイデアを他者によって実現してもらう」という考えで成り立っている以上、開発側にクリエイション(アイデアをいかに発見するか)が入り込む余地がない。

文化という側面で言えば、人に頼まれて何かをやるという仕事の方式そのものが減点ベースの評価にならざるを得ず、アジャイルとそもそも相容れないと言う事も出来る。

これは受託開発だったらウォーターフォールという選択の問題ではない。人に頼まれて何かをやるときは「交渉」が最重要事案になるというだけだ。

自分達で発見したものを世に問うという仕事に就きたいというのは完全に価値観の問題であって、多くの人にとっては「人に頼まれて何かをやる」のがそもそも仕事の定義であり、その上で生活が成り立っている。社会全体としては価値を生み出していなくても「交渉」によってお金を回す事は出来る(それが持続可能なのかは別にして)。

アジャイル最大の難点は、当たり前だが、そこで価値の発見が保証されているわけではないというところだろうか。以前、スティーヴン・キング氏の自伝「On Writing: A Memoir of the Craft」を紹介したが、それを読めば誰もが小説が書けるわけではないのと同じように。

何が見つかるか分からない状況で旅に出ることをこの上ない喜びと感じるか、そんな博打を打っていたら生活が成り立たないと嘆くか、そこが文化の分かれ道かもしれない。

アジャイルはプログラマーに万能を求める。

アジャイルの問題意識がそもそも役割の分断にあるので、必然的に分断された役割を小さな範囲に集約していくことになる。そこを突き詰めると、それは単にフルスタックエンジニアになるというレベルを超えて、各人が自律したマーケターになることも要求されるようになる。

興味深い事に、これはマーケティング分野の側でも同じような事が言われているようだ。

アジャイルにおいて創造のエンジンを担っているのはプログラマーの側である。その外側にいてアイデアや舵取りの責任を持つ人間の存在はアジャイルにとっては単なる非効率に過ぎない。技術がイノベーションの源泉になっている、あるいはそのような組織を目指しているのなら尚更、外側の人間がアジャイルのエンジンに噛み合って仕事ができるという幻想を捨てなければならない。

しかし、冷静に考えてみよう。こんなことが可能な環境や組織が果たしてどのぐらい存在するだろうか? あるいはそれこそがクリエーションの希少性と呼べるものなのかもしれないが。

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