Graph Tourism で興味の壁を破る – ユメアト.net による実践

仕事を辞めてぼんやりと路頭に迷っている内に半年が過ぎようとしている。

その間、Cotoami の Patreonプロジェクトを立ち上げたり(ご支援お待ちしてます🙇)、新しく思いついたことを少しずつ形にして、細々と実験を重ねたりしていた。

油断していると一年ぐらいあっという間に過ぎ去りそうなので、せめてこの半年間の試行錯誤をここに記録しておきたいと思う。

前回の記事「アウトライナーの新しい形を考える」では、筆者が個人的に開発中の、なんとも形容のし難いソフトウェアを、アウトライナーという比較的ポピュラーなソフトウェアと対比することで説明を試みた。

そのソフトウェア、Cotoami のゴールは、単に情報を整理して多面的な知識ベースを作るということに留まらず、「発見」を支援する環境を提供することを目標にしている。しかしながら、現時点でその目標に到達できているかと言えば、あと一歩、決定的な何かが欠けているような気がしていた。そして、そのアイデアについての試行錯誤を続ける内に、「発見」にフォーカスするならもっと違うアプローチが必要になるのではないかと考えるようになった。

そこで思いついたアイデアを形にしてみたのが、「ユメアト.net」というサイトである。

ユメアト.net – https://yumeato.net

ユメアト.net は、グラフ構造に従って旅行先を選択し、その足跡を記録して共有するためのサービスである。これを個人的に「Graph Tourism」と呼んでいる。なんのこっちゃと思われるかもしれないが、順を追って説明したい。

どこかに旅行しようと思い立つとき、例えば「温泉に行きたい」とか「三十三観音巡りをしたい」とか、あるいは「そうだ 京都、行こう。」のように、テーマがあってそこから目的地を決めるケースが多いのではないかと思う。それをここでは「縦のつながりによる選択」と呼ぶことにする。つまり、カテゴリー(上位概念)から目的地を選ぶようなケースである。

一方で、とある場所に出かけて行って、現地で見つけた意外な縁で別の目的地に導かれる、といったような「横のつながりによる選択」が行われることもある。ユメアト.net は、この「横のつながり」あるいは「隣接関係」を辿る旅を支援する。

アウトライナーの新しい形を考える」の中で、ツリー構造とグラフ(ネットワーク)構造の比較を行った。縦のつながりだけを表現するツリーに対して、縦横両方を含めることができるのがグラフであり、それがこのコンセプトを Graph Tourism と呼ぶ理由なのだが、実際には縦より横の関係に力点を置く。

縦のつながり、あるいはカテゴリーによる選択は、単純に言えば旅行者自身の「興味」による選択である。一度、興味(テーマ)が設定されてしまうと、そこから逸脱しようという動機付けはなかなか働かない。むしろそのカテゴリーを極めようとするのが人情である。その壁を破るために、横のつながり(隣接関係)が重要なのではないかと考えた。

ユメアト.net では、過去の出来事の痕跡を残す場所を、史跡よりも広い意味で「ユメアト」と呼ぶ(由来にした松尾芭蕉の「夢の跡」はむしろ痕跡が残ってない場所のことだと後々気がついた)。ユメアトはそれぞれに関係する、共通の「固有名(人物や場所などの名前)」があるときに、横のつながりを持つ。

例えば、1862年9月14日に、横浜の生麦で起こった「生麦事件」という出来事がある(生麦事件 - Yumeato.net)。

ユメアト.net で生麦事件のページを見ると、場所や日付などの基本情報と一緒に、沢山の関係する固有名が並んでいる。

例えばこの中から、事件の当事者の一人「大久保利通」を選択すると、彼が関わった他のユメアトの一覧を見ることができる。

こんな感じでユメアトと固有名のつながりを辿って次の目的地を探しながら旅を続けて行く。

以下は、筆者が去年の春頃から始めた旅の足跡をグラフ化したものである(こちらで実物を閲覧できる)。

横のつながりを追う旅は、自分自身の興味の範囲に留まることなく、現地で見つけた痕跡とそこから辿れる縁に従って、カテゴリーを次々に横断して行く。筆者の例で言えば、地図上から適当に選んだ「玉川上水開削」の現場に始まり、巡り巡って、鉄道の父「井上勝」のお墓に訪れたり、その墓地で「賀茂真淵」という人物の墓を見つけた縁で、彼の生誕地である静岡県浜松市の神社を訪れたりと、この仕組みがなければ絶対に訪れなかったであろう場所に幾度も出会ってきた。

隣接関係を辿って行くと、カテゴリーには囚われない自分だけの文脈というものが生まれてくる。それによって目的地が、単に観光地だから、あるいは有名だからという理由で訪れるのとは全く別の意味を帯びてくる。

つながりを辿る旅を続ける内に、自分の中に自分だけの文脈ができて、新たなユメアトをより深く楽しめるようになっていることに気がつきました。なんの変哲も無い路地に、誰にも気付かれずひっそりと立っている石碑でも、自分の足跡につながるものであれば、宝物を発見したような気持ちになれます。- ユメアトを楽しむ – ユメアト

この方法で旅をすれば、興味やカテゴリーによって目的地を選ぶよりも、より未知の世界に足を踏み入れて行く可能性が格段に高くなり、かつ、単にランダムに目的地を選ぶよりも、横のつながりによる文脈が積み重なった、よりリッチな体験として足跡を振り返ることができる。

「発見」という観点から言えば、実際に現地に訪れる、物理的に移動するということも極めて重要である。そこには、先ほどの墓地の例のように、物理的(あるいは距離的な)隣接関係による発見が期待できる。実際に出かけてみると思いもよらなかった発見をするというのは、どんな形であれ、旅行をすれば誰でも普通に経験することなのではないかと思う。

筆者が旅先でどのような体験・発見をしたのか、Twitter (@yumeato_net) で詳細な記録を付けているので、興味のある方は覗いてみて欲しい。旅行記のまとめも随時更新している。

隣接関係のコンセプトは、本屋に出かけてなんとなく書棚を眺めている内に、元々の目的とは違う本を発見することに似ているかもしれない。振り返ってみれば、インターネットも、そもそもはグラフ構造で発見のプラットフォームだったはずなのに、今ではカテゴリー内に閉じる方向に強化されてしまった。そのような環境で自分の興味の壁を破る一つの処方箋として Graph Tourism というものを考えてみた。

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